『SPEC』の背景には、特に映画で明らかにあるのだが、「世界各国の政府は傀儡で、世界の行方を裏で操っているサブアトラスという組織がある」という「ディープステート(以下DS)」を思わせる痛い陰謀論があった。
2013年当時は、DSを信じると言うのは痛い考えだったからこそ、SPECがエンターテイメントとして成立していたわけだが、その後の事情の変化は激しいものがある。
QアノンがDSを含む陰謀論を繰り広げ、Qアノンに共感を抱くドナルド・トランプが大統領になった。2020年のアメリカ大統領選挙をめぐっては、合衆国議会議事堂襲撃事件も起こった。
そして、トランプ大統領が3度目の大統領就任を目指した2024年のアメリカ大統領選挙においては、トランプ大統領は「DSの解体」を公約に掲げ、FBI長官にFBI解体を掲げ、FBI本部を「DSの博物館」にするとするカシュ・パテル氏の指名を検討しているとされた。
SPECにおいては、SPECホルダーだけを殺すウイルスと、ワクチンをめぐる攻防があったが、トランプ大統領は、保健福祉長官に「反ワクチン」で知られるロバート・F・ケネディ・ジュニア氏を指名すると言う。
このように、SPECという荒唐無稽なエンターテイメントを上回る、荒唐無稽な現実が、アメリカで、世界で起こることなど予想できたであろうか。こんな現実を凌駕するエンターテイメントが、このさき作れるのだろうか。