『ケイゾク』について、映像で説明されていない視点で、あるいは勝手に補完をして見ようと思う。
今回は、第三話『盗聴された殺人』についてである。
この回は、突拍子もないトリックに目が奪われがちだが、『ケイゾク』全体の重要なテーマを含んだ回だ。
注目すべきなのは、柴田と真山の「法」や「正義」についての考え方である。柴田はこの回で初めて、犯罪行為というものも、それを法で裁く行為も、同じように人を傷つけるものではないかと悩む。最初は柴田をただの頭でっかちなキャリア刑事だと見ていた真山だが、この辺りでただのキャリアとは違う「何か」が柴田にあると感じ始めているのだろうか。そして、真山は「俺たちは刑事だ。それ以上でもそれ以下でもないんじゃないかな」と諭す。
一方で真山は、竹下美奈子に、「報告してやれよ。パパを殺した犯人を、ママが殺しましたと。立派なことをやりましたと、ちゃんとこの子に伝えてやれよ」とも言う。「正義」は「法」の上にあるという宣言だ。
そんなことを考えながら、次のシーンを見ると、興味深いものはある。
柴田「ある日突然愛する夫を殺されて、しかもそれが夫の愛人の差し金だったなんて、踏んだり蹴ったりもいいところですよね」
真山「お前ならどうする?」
柴田「えっ?」
真山「愛する夫を殺されて、自分の、家庭も、将来もめちゃめちゃにされて、しかもそれが、ダンナの浮気相手だったらどうする?」
柴田「私のダンナ様は浮気しないと思うんですけど」
真山「ダンナ様?バカじゃない?おいしょ」
柴田「そういえば真山さんはどうなんですか?」
真山「俺だったら、やっぱ…」
柴田「浮気したことありますか?」
真山「浮気?だって独身だもん。知ってんじゃん」
柴田「そうですよね」
真山「知ってんじゃん」
柴田「そうかそうか。結婚してないと浮気はできないんだ。なるほど」
(ガサゴソ)
真山「なあ、お、お前今、オムツとかしてないよな?お前ね、からかわれてんの。なっ?早く着替えなきゃ」
このシーンには、色々な要素をぶちこんであって分析するのが面白い。まず、「浮気」のことしか考えていない柴田と、恐らく「復讐」のことを考えている真山のかみ合わない会話。その裏には、上に書いた「正義>法」という真山の倫理観がある。そして、「ダンナ様」「結婚してないと浮気はできないんだ」と言った柴田の迷言。脚本家の西荻弓絵さんは、落研出身だそうで、かみ合わない会話が続いているのは言われてみれば、落語的である。
ところで、最終回では名シーンを演出することになった、柴田の頭が臭いという設定だが、この回において初めて登場するものであり、ケイゾク/Blu-ray BOXの『ケイゾク/映画』初日舞台挨拶後インタビューの堤監督の発言によると、アドリブだったという。台本では、
ザザ、と聞き取りにくい雑音。
近藤「ん?(と、盗聴器を操作して)……」
柴田「(どうかしたんですか?)」
となっているのだが、ドラマでは、
(ノイズ)
柴田「どうしたんですか?」
真山「お前の頭どうしたんですか?」
柴田「はい?」
真山「臭いよ。お前頭洗ってないだろ?」
となっているのである(なお、出版されている『ケイゾク/台本』は、映像との照合が行われているのだが、この部分についてはスルーされている)。
さらに次の回の台本では、「頭臭い」「風呂に入っていない」が反映されている。つまり、第三話のこのシーンを撮り終わった後に第四話の台本を書き直したという、苦労が伺える。
なお、この回の裏では、『もののけ姫』が放送されていた。その回に、同じ宮崎駿監督の『となりのトトロ』のオープニングテーマ『さんぽ』が使われているのは、偶然だろうか。