時は、1999年3月19日。
ドラマ、『ケイゾク』の最終回、エンドロールが流れ、提供コールの背景で聞こえた声に、私は耳を疑った。
「また指紋が変わってる?朝倉は、まだ生きているのか…」
そして、「予告」というテロップに挟み込まれた、柴田の「ダンナ様〜」という声とともに、あの伝説の、「ケイゾク/映画」フェイク予告が放送されたのである。
ドラマ終了後、ネット上でも、このフェイク予告を巡って、様々な推測が交わされた。そしてまた、TBSでは明け方まで電話が鳴り止まなかったという逸話を、どこかで目にしたような気がしたが、ようやく見つけた。古式ゆかしい、ケイゾクのファンサイト、『ケイゾクをケイゾク』によると(これも孫引き情報だが)朝日新聞(大阪版)1999/4/5(月)夕刊2面に、「放送終了直後、インターネット経由で百五十本、電話で製作部に二百本、番組宣伝部に数十本あった」と言った内容を含む記事が掲載されたようだ。
もちろん、本当にこれが映画の予告編だと思った人もいるだろうが、私はフェイクだとしか思わなかった。
目ざとい人は、これが映画本編から抜き出されたものではなくて、作られたもので、フェイクだと見抜いていた。
「ケイゾク/映画 ・・・にケイゾク」という画面に一瞬だけ(フィクション)というテロップが仕込まれていることは、皆さん承知のことと思うが、一瞬のことであり、その当時気づいた人は少なかったように思う。
このフェイク予告は、VHSで販売・レンタルされた『ケイゾク』のパッケージに収録されることはなかった。
正式に映画館で『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』の予告編が映画館で流れたのは1999年7月であるがもちろんそれは、このフェイク予告ではない。
時は1999年12月24日に飛ぶ。
『ケイゾク/特別篇』の放送を前に、TBSでは『ケイゾク』の再放送が行われており、ちょうどこの日、最終回の再放送が行われていた。
ここで再び、あのフェイク予告が放送された。
ここで驚愕させられたのは、あの(フィクション)というテロップが、(ノンフィクション)と差し替えられていたのである。
これはもちろん、この時点で『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』の製作発表があり、公開まで決まっていたからである。
そして、2000年3月4日に公開された『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』の冒頭でサバ男が見ているのが(もっと言うと、東宝ロゴが出てすぐに流れる「ダンナ様〜」という声から)、この「ケイゾク/映画」フェイク予告である。
このフェイク予告は、2000年8月23日に発売された『ケイゾク』DVD 6巻に収録され、DVDコンプリートBOXやBlu-Ray BOXでも見ることができる。ただし、冒頭の音声が欠けている。
このフェイク予告が作られた背景は、次のようなものであるという。
『ケイゾク/公式事件ファイル』のインタビューで植田Pが語るところによると、「みんなが死んじゃうのはあまりに哀しいので、プロットを作った時にシャレで映画予告をぱらぱらっと描いたんです。そしたらそれは撮りましょうって急遽撮ることになって、最終回のラストカットのあとで自主制作映画みたいに撮りました」という経緯で作ったとのことだ。
ところで、『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』が現実の企画として進むきっかけになったのは、『ケイゾク/雑誌』の植田博樹Pとキングレコードの大月俊倫さんの対談で書かれているように、大月さんが(キングレコードで)「全額出してもいい」と言った鶴の一声がきっかけとなっているということ。植田Pが連ドラの最中に、数字のことを聞かれて、「映画化の話もあるんで」と答えると、みんな黙ってくれた、とも言っているので、どこで映画化が「本決まり」になったのかはあやふやではある。
余談だが、提供コールの間にセリフを挟んでくるという手法は、『SPEC』にも継承され、第9話【壬の回】で使われている。