前回、【ヤメゴク】謎のまとめ(その3)最終回に向けて…で提示した謎が、どうであったのか検証して、『ヤメゴク』記事はひと段落とする。
なお、各項目の最初のパラグラフの、この書体の部分が(その3)で書いたものである。
【永光麦秋の、橘勲に対する感情はどう変わるか】
人生を全力で否定したいんです、殺しても殺したりないという表現で、橘勲を逮捕することに命をかけていた麦秋だが、自分が橘勲の隠し子ではなかったことを知って、ある意味ゲシュタルト崩壊したような衝撃を受けた状態の麦秋である。
そんななか、有留章子に橘勲を逮捕するように迫られたというのが前回の話であった。
まぁ、橘勲に対する憎しみを捨てることができるのか、それとともに、橘勲を逮捕するのかが注目だ。
…って当たり前だな。
前者の件であるが、「麦は踏まれて踏まれて強くなる、私にそう教えてくれた親がいますから」という部分、幼い頃の記憶が、麦秋の憎しみを捨てさせたということなのだろう。
後者であるが、逮捕するにはした。しかし、公務執行妨害だけであった。
【永光麦秋の、永光由美子に対する感情はどう変わるか】
これまた、人生を全力で否定したいんです、殺しても殺したりないという表現をしていた一人である。
しかし、親子のわだかまりが解消されることについて、見ている私自身がわだかまりを感じることはないので、実はこの点は「着目点」ではないのだ。
麦秋「お母さんが私を、警察官にしてくれた。警察に嘘をついてまで。辛かったね。ありがとう」
ということで、麦秋の中での気持ちの整理がついたといえるだろう。
【麦秋の、ヤクザとヤクザに利益供与するカタギを憎む気持ちはどうなるのか】
もともと麦秋が、ヤクザとヤクザに利益供与するカタギを憎むようになったのは、橘勲の一件というか、橘勲と麦秋の関係を勘違いした人事課に受けた仕打ちの一件だろう。
だから、橘勲と自分との本当の関係を知ることで、ヤクザとヤクザに利益供与するカタギを憎む気持ちも消えていくという考え方もできる。
しかし、足抜けコールの永光麦秋巡査部長が、ヤクザに優しい人間に変わってしまうのは、有留章子のように、彼女に今まで苦しめられてきた人間にとっては、許せないことなのではないかと思う。個人的にはヤクザに甘い永光麦秋は、永光麦秋ではないと思っている。
「苦しんで苦しんで、そこからカタギにはい上がっていく」という麦秋の自説は、変わることはなかった。しかし、ヤクザに利益供与するカタギを許さないということから、「ヤクザを抜ける人と、ヤクザに関わった人を、助けるために」足抜けコールを続けていく、というふうに変わった。
まぁそういう意味では、ヤクザに甘くなった、というわけでもないだろう。
【橘勲はどうなるのか?】
上に書いたように、麦秋に逮捕されるのか?という話が一つある。
もう一つは、そもそも手術が成功するのか、失敗して死ぬのか、仮に成功だとしても、脊髄を損傷しているという説明が前回あったのだから、後遺症は残るのではないかということである。
何れにしても、物語的には、彼には「死亡フラグ」が立っているような気がしてならない。
ドラマの世界である。現実には不可能だが、脊髄を損傷した患者が、歩けるようになった。そして、死んだのは、橘ではなく、水田の方であった。橘が死んでいたら、麦秋の喪が明けることはなく、黒い服の刑事の物語は続いていたのかな、という気がしないでもない。
【有留章子はどう動く?】
脊髄損傷を治せるという、神の手を持つ女(笑)
橘勲の生死は彼女にかかっているわけで、彼女がどう動くかが、最終回の行く末を占うといっていいだろう。
章子は橘勲を救うとともに、佐野に近づき、姿をくらますように助言する。しかし、その佐野の行く末そのものが、よくわからなかった。
【谷川課長は、麦秋にした仕打ちに対する落とし前をつけるのか?】
「麦秋が、橘勲の娘だった」ということを前提にした谷川の麦秋に対する仕打ち。橘勲と麦秋の父親は別人、犯罪を犯したとは言え、罪を償っている(と思う)。谷川はそれを知りつつ、あえてヤクザを滅ぼす女刑事を作るために麦秋にあのような仕打ちを加えたのか?それとも何も知らなかったのか?
何れにしても、なんらかの責任を取らなければならないことである。
納得いかない点を挙げるとすると、この点である。人事課が橘勲を麦秋の実の父親と勘違いしたことにより、麦秋は法令執行命令室に異動させられ、一年間勤務した。この間違いについて、谷川課長は結局、何の責任も取ることはなかった。
まあこれは、間違いを犯しても公務員は責任を取らされない、という、製作者の皮肉なメッセージなのだろうか。厚生労働省の村木事務次官が部下の起こした不祥事で二度も処分を受けていることを考えると、公務員の世界もパブリックイメージほど甘くはなってないように思うけど。
【佐野の抱える闇とは?】
佐野はこんなことを第九話で言っている。
「過去に大きな失敗をしていること、その失敗に現在もとらわれ、懸命に抜け出そうとしていること。だからこそ、強いご意志をお持ちの人にひかれその人についていきたくなること」「そのとき私は、自分にとって最も大切なものを失いました。だから今、懸命にそれを取り戻そうとしております。たとえバクちゃんにすがっても」
佐野が犯した失敗とは何か?そして、佐野が失った「最も大切なもの」とは何か?ということである。
最終回に出てきた佐野の履歴書に少しヒントがある。
佐野は、長坂証券に勤務してトレーダーとして活躍するが、社長・長坂信人が逮捕され証券会社は倒産し、失職した。佐野の失敗が長坂社長の逮捕と結びついているかは明らかではないが、その可能性が一つ考えられること。もう一つは、警視庁に再就職し財務捜査官として勤務したが、刑事に依頼されて不正取引を見つけるだけの日々になってしまったことを、佐野のなかで「失敗」と捉えていると考えられる。
そして、佐野が失ったものとは、「ハラハラドキドキ」する感覚であろう。
【佐野が水千組の「客分」として仕掛けることは?】
当然、金融取引で大損失を与えることが予想できる。それは、「バクちゃんにすがって」いるからである
ところで、麦秋と佐野の関係であるが、麦秋は佐野の「裏の稼業」のことを知っていたように振舞っていたことがあった(第六話で、佐野が暴追センターに戻ろうとしたとき、「あなたはあなたの仕事をしてください」と言り、第九話でも「あなたはあなたの仕事に戻ってください」と言ったりしている)が、佐野の過去を知っていたわけでもないのだろうか。
佐野が仕掛けたことについては、予想通りの展開となった。
そして、麦秋と佐野の関係である。麦秋が「外から貴船組を追い詰め」、「中から追い詰める人間」として、谷川に選ばれたのが佐野だったということが明らかになった。そういう人物がいることを麦秋が知っていたのは自明だが、それが佐野だと麦秋が知っていたかどうか。佐野の過去は知らないが佐野がそういう裏稼業をしていることは麦秋も知っていたという整理でよさそうだ。
【関東貴船組はどうなる?】
傘下の二次団体、浅間組と武尊組は抗争を起こして、おそらく組長以下、逮捕の憂き目に会うだろう。そこに資金源の水千組の客分が大損失を与えるとすると、経済的に大打撃を受けることになる。あとは「橘の親父の兄貴分」の赤城会が残っているが…
そして、偽装離脱がバレて橘勲の息子、橘麦蒔の仮釈放は取り消されたはずだが、彼は登場するのか?そして、どのような立場を取るのだろうか?
麦秋は、関東貴船組の崩壊を容認するのか?まかり間違っても、麦秋が関東貴船組を継ぐ、なんて話になったら、私はテレビを投げ捨ててしまいたくなるくらい怒りを覚えるだろう。
幸いにも、「テレビを投げ捨ててしまいたくなるくらい怒りを覚える」ことはなかった。
関東貴船組本部、二次団体水千組は解散したことになるが、一部の構成員は赤城会に引き取られ、浅間組と武尊組も組長が逮捕されながらも存続されたことになる。
水田が偽装離脱を証言する件をなかったことにしたことで、橘麦蒔は仮釈放された。また今回、橘麦蒔は「静岡刑務所で会った土木会社の社長」と養子縁組することになったことになっている。第八話では、麦秋がこの養子縁組を後押ししたような表現になっていて、やはりこれは不自然な流れであった。
【それでも小ネタはあるのか?】
堤監督のことだから、ハードな展開になっても、小ネタ満載でやってくれるものと期待している。
ハードな展開というか、むしろ、今回は今までの鬱憤?を晴らすかのように、小ネタが満載だった印象を受ける。